本日、令和元年6月7日は、旧暦の5月5日に相当します。

これは豆知識ですが、5月5日に菖蒲湯に浸かると、蛇の子を堕胎できます。
蛇神に見初められてしまった方には必須のライフハックですね。


蛇に限らないことですが、異類、動物との結婚(獣姦)には一定の話型、話の流れがあります。
まず、蛇婿は基本的に、来訪する神の系譜にあります。
大抵のケースで、蛇の婿は、人間に化けて乙女(処女)の寝所にやってきて、契ります(異種姦)。しかし乙女……だった蛇のお嫁さんやその家族に本性、蛇であることがバレてしまい、離別します。

日本の異類婚姻譚は、正体がバレると別れなければならない、悲劇的なところに特徴があります。この離別ですが、単なる離婚ではなく、禁忌を犯したお嫁さんへの罰として去っていったり、お嫁さんの母親に殺されたりします。
蛇とお嫁さんとの間の子供は堕胎されるケースが多いですが、蛇に神としての側面が強い場合、有力氏族になるなど、子孫が繁栄することもあります。

蛇婿入り伝承のメッカ、大物主(オオモノヌシ)の神の三輪山伝承について説明します。大物主の神は、スサノヲノミコトの子孫である大国主の神のニギタマ、分身だとされます。Fate的な言い方をするならアルターエゴです。大物主の神には、複数の似通った蛇婿の神話が残っています。
蛇だけに蛇足ですが、大物主の神は蛇の神として現在でも崇められており、大神(オオミワ)神社・三輪山には生卵のお供え物が絶えません。
ちなみに三輪山は登拝できます。神体山、つまり神様そのものに登ることが可能とは、心躍りますね。アウトドア慣れした方なら、簡単に山頂まで行けるはずです。ただしハイキング用コース整備がされているわけではないので、インドア派の方は要注意です(体験談)。スマホ、運動靴、水分、虫除けスプレー、それらを入れるリュックを装備してから登拝しましょう。IMG_myoxu5





『古事記』中巻、第10代天皇崇神(すじん)天皇の段に、苧環(おだまき)伝承があります。
ちなみに、オダマキとは、つむいだ麻糸を、中が空洞になるように巻いたもののことです。
活玉依比売(イクタマヨリヒメ)の元に、正体不明の美男子が夜な夜な通い、ついに姫は妊娠します。姫の両親は、姫に夫が居ることも知らなかったので、驚いて、姫に男の正体を突き止めるよう入れ知恵をします。姫は男の衣服の裾に糸を刺します。その糸をたどると美和山(三勾の山、三輪山)の社へ続いていたため、姫は男の正体が大物主だと知ります。
大物主の神とイクタマヨリヒメの子供、あるいはその子孫である意富多多泥古(オオタタネコ)は大神神社を祀る氏族の祖先であるとされており、この伝承は氏族のルーツの説明でもあります。


『古事記』中巻、初代天皇、神武(じんむ)天皇の段などに、神武天皇皇后出生譚が記載されています。
川でトイレ中の勢夜陀多良比売(セヤダタラヒメ)の元に、丹塗矢(ニヌリヤ、赤or黄色にペイントされた矢)に変身した大物主の神が突撃訪問します。姫はその矢を持ち帰り、女児を産みます。この女児、富登多多良伊須岐比売(ホトタタライススキヒメ)は後に比売多多良伊須気余理比売(ヒメタタライスケヨリヒメ)に改名し、そして神武天皇の妃になります。


『日本書紀』では事代主(コトシロヌシ)の神が八尋鰐(ヤヒロワニ)=大きな水辺の生き物に変身して川を下って、三島溝樴(ミゾクイ)姫あるいは玉櫛姫の元に訪問し、神武天皇の皇后になる媛蹈鞴五十鈴媛(ヒメタタライスズヒメ)が生まれたとされます。


『日本書紀』巻第五、第10代崇神(スジン)天皇の段に、箸墓(ハシハカ)伝承があります。
倭迹迹日百襲姫(ヤマトトトビモモソヒメ)の元に、大物主の神が夜だけ通うため、姫は昼間に神の美しい姿を見たいとおねだりします。大物主の神は、姫に、自分の姿を見ても驚いてはいけないと禁忌を与えます。翌朝、櫛笥(クシゲ)=玉手箱=くしを入れる箱=化粧道具箱の中に、小さな美しい蛇がいたため、姫は驚いて大声で叫びます。恥をかかされた大物主の神は三諸(ミモロ)山へ帰ります。姫は女陰(ホト)=女性器を箸で突いて死にます。
箸墓古墳の由来譚です。箸墓古墳とは奈良県の纒向遺跡の一部の、3世紀半ばすぎの大型の前方後円墳のことです。


次に、賀茂伝承、賀茂神社祖神誕生譚について説明します。賀茂玉依姫(カモタマヨリヒメのみこと)が川で禊をしている時に、丹塗矢が川上から流れてきました。姫は丹塗矢を持って帰って床に祀り、就寝したところ、なぜか妊娠しました。丹塗矢と姫の間に生まれた可茂別雷(カモワケイカヅチのおおかみ)は、成長した後、国つ神の神々を集めた宴会の席で、カモワケイカヅチの大神の父親を明らかにしたいと思う祖父の賀茂建角身(カモタケツノミのみこと)に、父に酒を飲ませるよう言われます。丹塗矢の正体は天津神の火雷(ホノイカツチ)神であったため、カモワケイカヅチの大神は、雷鳴と共に天へ昇りました。
賀茂別雷神社(上賀茂神社)の祭神は賀茂別雷(カモワケイカヅチの大神)、賀茂御祖(ミオヤ)神社(通称下鴨神社)の祭神は賀茂玉依姫(カモタマヨリヒメのみこと)と賀茂建角身(カモタケツノミのみこと)です。



次は、昔話の蛇婿入りの話をします。
蛇婿入りには、大きく分けて2つのタイプがあります。

1つめは水乞い型、雨乞い型、契約型と呼ばれるものです。
まず、干上がった田に水を引いてもらうことの代償に父親が末娘を蛇へ嫁に出します。娘は針と瓢箪で蛇を殺す結末です。猿婿入りなどと共通するストーリーですね。末娘がそのまま大人しく蛇の嫁になるパターンもあります。この場合、娘の里帰りが起承転結の転や結に当たります。
ムケガラ節供(ムケの朔日)の由来とされることや、娘が蛇になっているパターンもあります。ムケガラ節句とは、正月の折り返し地点の節句で、若返ると言われています。ギルガメシュ叙事詩にもあるように、蛇の脱皮は不死の象徴です。



2つめは苧環型です。オダマキは分かりにくいので、最近は針糸型という言い方もします。

夜ごと娘のもとに通ってくる男の正体を確かめるため、母親が糸を付けた針を男の衣服に刺します。翌朝、その糸をたどっていくと、洞穴あるいは池にたどり着き、男が蛇であると突き止めます。通っていた男、つまり蛇は針で死にます。3月3日の桃酒、5月5日の菖蒲酒、9月9日の菊酒、あるいは5月5日に菖蒲湯に入ることで蛇の子を堕胎できると蛇たちの会話から知った娘の親は、蛇の子を身籠っていた娘に実行させます。
節供の由来譚です。

針糸型では、子が大成するパターンもあります。

『平家物語』に登場する熊本の緒方三郎出生譚は「平家苧環型」と呼ばれます。緒方三郎は義経の仲間の武将です。